ジャーナリングをやってみた
はじめに:ノートと私の奇妙な関係
私とノートの関係は、小学生の頃から続く長い付き合いだ。しかし、それは常に「書きかけのノート」との関係だった。
綺麗な新品のノートを買い、最初の数ページは丁寧に書くものの、やがて「もっと綺麗に書きたい」という完璧主義に阻まれ、結局は途中で放棄する——これが私のパターンだった。
「ジャーナリング」という言葉を知ったのは、約半年前のこと。
単なる日記ではなく、自己との対話や内省のツールとしてのジャーナリング。
SNSで見かけるその言葉に、何か特別なものを感じた私は、思い切って3ヶ月間、毎日ジャーナリングを続けてみることにした。
この記事では、ジャーナリング初心者だった私が体験した変化と発見を、できるだけ正直にシェアしたい。
あなたがジャーナリングを始めるきっかけになれば幸いだ。
最初の一歩:何を書けばいいのか分からない戸惑い
ジャーナリングを始めると決めた初日。真っ白なノートを前に、私は途方に暮れた。
「今日は何もなかったな」 「書くほどのことがあるだろうか」 「きれいな文章じゃないと恥ずかしい」
こんな思いが頭をよぎり、ペンは一向に進まなかった。
結局その日は、「今日からジャーナリングを始めることにした。
何を書いていいか分からない」という一文だけを残して。
しかし、2日目からは少し変わった。
その日あった小さな出来事—同僚からもらったコーヒーの味や、電車で読んでいた本の一節について書いてみた。特別なことではなく、日常の小さな気づきを書き連ねていくうちに、ペンが少しずつスムーズに動くようになっていった。
ジャーナリングの方法:私が試した5つのアプローチ
1. 朝の3ページ(モーニングページ)
作家のジュリア・キャメロンが提唱する方法で、朝起きてすぐに意識の流れのままに3ページ書き連ねるというもの。
私は最初の1ヶ月、この方法を試した。
最初の1週間は「今日は何をしよう」「昨日の続きのタスクがある」といった表層的な内容が多かったが、2週間目あたりから「なぜあの時あんな反応をしたのだろう」「本当は何が怖いのか」といった、より深い問いかけが自然と生まれるようになった。
2. 感謝の記録
毎日3つ、感謝していることを書き出す方法。
一見シンプルだが、これが意外と難しかった。「当たり前」と思っていたことに目を向けるきっかけになり、日常の小さな幸せに気づく習慣がついた。
「今日飲んだコーヒーの香りに感謝」 「雨の中、傘を貸してくれた見知らぬ人に感謝」 「締め切りに間に合わせる力が自分にあることに感謝」
こんな風に書いていくうちに、ネガティブな出来事の中にもポジティブな側面を見出す視点が少しずつ育まれていった。
3. 未来の自分への手紙
「5年後の自分」「理想の自分」へ向けて手紙を書く方法も試してみた。
これは特に「今の自分が何を大切にしているか」を明確にするのに役立った。
例えば「5年後の自分へ」という手紙を書いたとき、私は仕事の成功よりも「心穏やかに過ごせているか」「大切な人との関係は良好か」といった点に多くの言葉を費やしていた。この発見は、「本当に自分が重視している価値観」を再確認するきっかけになった。
4. 「なぜ」を5回繰り返す
何か問題や感情に直面したとき、「なぜ」を5回繰り返し問いかける方法。
例えば「今日のミーティングでイライラした」という状態から始めて:
- なぜイライラしたのか?→「自分の意見が通らなかったから」
- なぜそれが気になるのか?→「自分の存在価値を示せないと感じたから」
- なぜそう感じるのか?→「認められたいという欲求があるから」
- なぜ認められたいのか?→「子どもの頃から『良い子』でいることで愛されてきたから」
- なぜそれが今も影響するのか?→「自分の価値は成果で証明するものだと思い込んでいるから」
こうして書いていくと、表面的な感情の奥にある信念や価値観に気づく機会になった。
5. 1行ジャーナル
忙しい日は、その日を一行で表現する方法も取り入れた。
これは続けることよりも「その日の本質は何だったか」を凝縮して考える練習になった。
「初めて主導したプロジェクトが承認された、自信の芽生えた日」 「春の風を感じながら一人で散歩した、自分を取り戻せた日」 「友人の悩みを聞いて、自分の問題が小さく思えた日」
ジャーナリングがもたらした7つの変化
1. 感情の整理がスムーズになった
ジャーナリングを始めて最も早く実感したのは、モヤモヤした感情が言葉になることで整理されていく感覚だ。
特に仕事でのストレスや人間関係の悩みは、頭の中だけでぐるぐる考えていると堂々巡りになりがちだが、書き出すことで「これは相手の問題」「これは自分の思い込み」と区別できるようになった。
2. 「当たり前」に気づく目が養われた
感謝のジャーナリングを続けるうちに、日常のささやかな喜びに目を向ける習慣がついた。朝日の美しさ、美味しい食事、家族との会話—これらは以前なら素通りしていたことだ。
「幸せ」を大きなイベントではなく日常の中に見出せるようになったことは、毎日の満足度を確実に高めてくれた。
3. 自己対話の質が深まった
最初は表面的だった自問自答が、徐々に本質的な問いかけに変わっていった。
「なぜこの仕事をしているのか」 「どんな人間関係を築きたいのか」 「10年後、何を後悔したくないか」
こうした問いに向き合うことで、日々の選択に一貫性が生まれ、何を優先すべきかがクリアになった。
4. パターン認識力が高まった
3ヶ月間書き続けると、自分の思考や行動のパターンが見えてきた。例えば私の場合:
- 締め切り前に無意識に別の作業で忙しくなる先延ばし癖
- 批判を恐れるあまり、アイデアを共有するのを躊躇する傾向
- 疲れると完璧主義が強まり、かえって物事が進まなくなる悪循環
これらのパターンに気づくことで、「あ、また始まった」と認識できるようになり、その場で軌道修正できるようになった。
5. 創造性の扉が開いた
日々の思考や観察を書き留める習慣から、予想外の創造性が湧き出してきた。初めは事実の記録だったジャーナルに、徐々に詩的な表現や比喩、時には小さな物語のようなものも現れ始めた。
この変化は仕事にも良い影響を与え、企画書やプレゼンテーションに新しいアイデアが浮かぶようになった。
6. 自己肯定感が静かに育まれた
「完璧でなくても書き続ける」という行為自体が、自分を受け入れる練習になった。雑な字で書いた日もあれば、文章として破綻している日もある。それでも続けることで、「完璧でない自分」を許せるようになった。
また、過去のジャーナルを読み返すと、同じような悩みを乗り越えてきた自分の強さや、少しずつ成長している軌跡が見えて、自信につながっていった。
7. 現在に生きる意識が強まった
ジャーナリングは、その日その瞬間に意識を向ける営みだ。過去を反省し、未来を計画することもあるが、それを「今」書いているという行為自体が現在に根ざしている。
この「今ここ」に意識を向ける習慣は、日常生活にも浸透し、食事の味をより味わえるようになったり、会話により集中できるようになったりと、人生の濃度を高めてくれた。
継続のコツ:私が3ヶ月続けられた理由
完璧を求めない
文章力や内容の深さを求めず、「書く」という行為自体に価値を置いた。乱雑な字で書いた日も、内容が浅い日も、とにかく書いた自分を褒めた。
自分だけのルールを作る
「毎日3ページ」「朝起きてすぐ」など、一般的なアドバイスは参考程度に。自分の生活リズムに合わせて「帰宅後15分」「寝る前の5分だけでも」というように柔軟にアレンジした。
書くための環境づくり
お気に入りのノートとペン、心地よい音楽、香りのあるキャンドル—ジャーナリングの時間を特別な儀式のように扱うことで、その時間自体が楽しみになった。
おわりに:ジャーナリングは旅の記録であり、旅そのもの
3ヶ月間のジャーナリングを振り返って思うのは、それが単なる記録ではなく、自分自身との対話の旅だったということだ。
書き始めた頃の私は、日々の出来事を淡々と記録していただけ。しかし今、ノートを開くと、そこには感情の起伏、気づき、成長の軌跡、そして時には迷いや後退の姿もある。それらすべてが「私」という存在を形作っていることに気づかされる。
ジャーナリングは、目に見える成果がすぐに現れるものではない。しかし、水滴が少しずつ岩に穴を開けていくように、日々の小さな気づきと内省が、気づかないうちに私たちの内側に変化をもたらしてくれる。
もし今、あなたが「自分を深く知りたい」「日々に意味を見出したい」と感じているなら、ぜひ一冊のノートを手に取ってみてほしい。
そして最初のページに、とりあえずこう書いてみるといい。
「今日からジャーナリングを始めることにした。何を書いていいか分からない。」
それだけで十分だ。
そこからあなた自身の、唯一無二の旅が始まる。













